伊曾保物語 (中) - 20 鷲とかたつぶりの事

 有時、鷲かたつぶりを■らはばやと思ひけれど、いかんともせん事を知らず、思ひわづらふ所に、烏かたはらより進み出て申けるは、「此かたつぶりをほろぼさん事、いとやすき事にてこそ侍。我申ベきやうにし給ひて後、我に其半分をあたへ給はば、教へ奉らん」といふ。鷲うけがうてその故を問ふに、烏申けるは、「かのかたつぶりを掴みあがり、高き所よりおとし給はば、その殻たちまちに碎けなん」といふ。案のごとくし侍ければ、たやすく取つてこれを食ふ。
 そのごとく、たとひ權門高家の人成共、わが心をほしゐまゝにせず、智者の教へに從ふべし。そのゆへは、鷲と烏をくらべんに、その徳などかはまさるべきなれども、かたつぶりのしはざにおゐては、烏もつともこれを得たる。事にふれて事ごとに人に問ふべし。