ある時、鷲我子の餌食となさんがため、狐の子を奪ひ取つて飛び去りぬ。狐天に仰ぎ地に臥して歎き悲しむといへども、その甲斐なし。狐心に思ふやう、「いかさまにも鷹の仇には煙にしく事なし」とて、柴といふ物を鷲の巣のもとに集めて、火をなんつけければ、鷲の子焔のうちに悲しむありさま、誠にあはれに見えける。その時、鷲千たび悲しめ共甲斐なし。つゐに燒きおとされて、たちまち狐のために其子を■らはる。
そのごとく、當座我勝手なればとて、下ざまの者に仇をなしをく事なかれ。人の思ひの積りぬれば、つゐにはいづくにか遁るべき。「高き堤も蟻の穴よりくづれ始むる」となんいひける。