伊曾保物語 (上) - 19 ねたなを帝王不審の事

 さるほどに、いそほ誅せられける由隱れなし。これによつて、諸國より不審をかくる事ひまもなし。中にもえしつとの國、ねたなをと申御門よりかけさせ給ふ御不審にいはく、「我虚空に一つの殿閣を建てむとす。其建てやう以下を示し給へ。御工匠によつて殿閣たちまち造畢せば、あまたの寶を奉り、その上年々に御調物を參らすべし。すみやかに此不審を啓き給へ」と書き止め給ふ。御門此由叡覽あつて、、百官卿相、その外才智學藝にたづさはる程の者どもを召出され、「この事いかゞ」と問ひ給へ共、少も不審を啓くことなし。是によつて、御門御無興の御事とぞ聞えける。上下萬民の人々、竝み居て歎き悲しみあへり。主上御悲しみの餘にの給ひけるは、「さてもいそほを失ひ給事、我なすわざといひながら、ひとへにわが國のほろびなん基」とぞのたまひける。「もしこの不審を啓かずは、後日の恥辱量りがたし。いかに+ 」と計にて、兩眼より御涙がちにて渡らせ給ふ。