あるかさみ、あまた子を持ちけるなり。其子をのれが癖に横走りする所を、母これを見て、諌めて云、「汝ら何によりてか横さまには歩みけるぞ」と申ければ、子共謹(つ)しんで承り、「一人の癖にてもなし。われら兄弟、皆形のごとし。然らば、母上ありき給へ。それを學び奉らん」といひければ、「さらば」とてさきにありきけるを見れば、我横走りにすこしもたがはず。子ども笑ひて申けるは、「われら横ありき候か、母上のあるかせ給ふは、縱ありきか、そばありきか」と笑ひければ、ことばなふてぞゐたりける。
そのごとく、わが身の癖をばかへり見ず、人のあやまちをば云もの也。若さやうに人の笑はん時は、退ひて人の是非を見るべきにや。