伊曾保物語 (上) - 17 いそほ諸國をめぐる事

 去程に、いそほはそれより諸國をめぐりあるきけるに、はひらうにやの國りくるすと申帝王、これを愛し給ふ事かぎりなし。國王のもてなし給ふ上は、百官卿相を始として、あやしの者に至るまでも、これをもてなす事かぎりなし。
 その此の習ひとして、餘の國の帝王より種々の不審をかけあはせ給ふに、もしその不審を啓かせ給はねば、其返報に寶祿を奉る。しかのみならず、不審を啓かせ給はぬ帝王をば、ひとへにその臣下のごとし。これによつて、諸國の不審區なり。然に、はひらうにやの帝王へかけさせ給ふ不審啓かせ給はぬ事なし。是ひとへにいそ保が才學とぞ見えける。又、はひらうにやより餘の國へかけ給ふ不審は、い曾保がかけ給ふ不審なれば、一つも啓かせ玉ふ國王なし。その返報として、あまたの財寶を取らせ給。そのめぐみによりて、いそほもめでたく榮へける事限なし。才智は是朽ちせぬ財とぞ見えける。