伊曾保物語 - オンライン読書
伊曾保物語 (中) - 17 獅子王と驢馬の事
ある師子王通りける所を、驢馬是をあざける。獅子王此由を聞きて、「あつぱれ食い殺してんや」と怒りけるが、「しばし」とてゆるす心出來ける。そのゆへは、「われとひとしき者にもあらば、其あらそひもおよび侍るべけれ共、かれらがごとく宿世つたなき者に、あたら口をけがさんもさすがなれば」とてゆるし侍りき。
其ごとく、無智の輩にむかつて是非を論ずべからず、といへる心なるべし。驢馬とは、無知の輩をさすべし。獅子王とは、才知儀しかる者をたとふるなり。
伊曾保物語 (中) - 18 京田舍の鼠の事