ある商人、さんにおゐて三貫目の銀子をおとすによつて、札を立ててこれをもとむ。その札にいはく、「此かねを拾ひける者のあるにおゐては、我に得させよ。その褒美として三分一をあたへん」となり。然に、ある者是を拾ふ。我家に歸り、妻子に語つていはく、「われ貧苦の身として、汝等を養ふべき財なし。天道これを照覽あつて、給はるや」とよろこぶ事かぎりなし。しかりといへども、この札のおもてを聞きていふやう、「その主すでに分明なり。道理を枉げんもさすがなれば、この銀を主へ返し、三分一を得てまし」といひ、かの主がもとへ行て、そのありやうを語る所に、主俄に欲念おこつて、褒美のかねを難澁せしめんがため、「わがかねすでに四貫目ありき。持ちきたれるところは三貫目なり。そのまゝおき、汝はまかり歸れ」といふ。かの者愁へていはく、「我正直をあらはすといへども、御邊は無理をの給ふ也。詮ずる所、守護識に出て、理非を決斷せん」といふ。
さるによつて、二人ながら糺明の庭にまかり出る。かれとこれとあらそふ所決しがたし。かの主、誓斷をもつて「四貫目ありき」と云。かの者は、「三貫目ありき」と云。奉行も理非を決しかねて、いそ保に「紀明し給へ」と云。伊曾保聞きていはく、「本主の云所明白なり。しかのみならず、誓斷あり。眞實これに過ぐべからず。しかれば、此かねは、かの主のかねにてはあるべからず。其故は、おとす所のかねは三貫目なり。拾ひたる物に、これをたまはりて歸れ」とのたまひければ、その時本の主をどろきさはぎ、「今はなにをかつゝむべき。此かねすでにわがかねなり。褒美の所を難澁せしめんがため、私曲を構へ申なり。あはれ三分一をばかれにあたへ、殘りをわれにたべかし」と云ふ。その時、いそ保笑つていはく、「汝が欲念亂れがはし。今より以後は停止せしめよ。さらば汝につかはす。」とて、三分二をば主に返し、三分一を拾ひ手にあたう。その時、袋を開いて見れば、日記即ち三貫目なり。「前代未聞の檢斷なり」と人々感じ給ひけり。



