いそほりいひやに居所せしむ。その御赦免を報ぜんがために、一七日にこの書を集め、奉る。御門叡覽あつて、誠に不思議の思ひをなし給へり。「かゝる才人世にあるまじ」とて、あまたの祿をくだされける。いそほ、此たまものを船に積み、さんへ二たび下にけり。さむの人々此由を聞きて、伊曾保を迎へんとて、樓船を飾り、舞樂を奏し、海中の魚鱗もおどろくばかり、ざゞめきあへり。
去程に、いそほはほどなくさんに付て、高きいやしき擇ばず召しいだし、其身は高座にのぼり、「いかに人々聞給へ。われこの年月此所にあつて、面々の御あわれみをかうむる事かぎりなし。しかのみならず、人の譜代たりし物を請いゆるされてける事に至るまで、この所の御恩にあらずと云事なし。しかるを、不慮の災禍によつて、りいひやの國王より御調物をゆるし給ふこと、これわが才智のなす所なり。これにあらずんば、いかでか御恩を報ずべけんや。是もひとへに天道の御めぐみにてこそ候へ」と語ければ、その守護人を初めとして、よろこびあへる事かぎりなし。それよりして、さんの事は申におよばず、あたり近き國里までも、いよ\/いそほを貴みあへりけり。