伊曾保物語 (中) - 13 犬と肉の事

 ある犬、肉をくはへて河を渡る。まん中ほどにてその影水に映りて大きに見えければ、「わがくはゆる所の肉より大きなる」と心得て、これを捨ててかれを取らんとす。かるがゆへに、二つながら是を失ふ。
 そのごとく、重欲心の輩は、他の財をうらやみ、事にふれて貪る程に、たちまち天罸をかうむる。わが持つ所の財をも失う事ありけり。