ある鷲、餌食のために羊の子を掴み取つて食らふ事ありけり。烏これを見て、「あなうらやまし。いづれも鳥の身として、なにかはかやうにせざるべき」と我慢おこし、「我も」とて、野牛のあるを見て掴みかゝりぬ。それ野牛の毛は、縮みて深きもの也。かるがゆへに、かへつてをのれが臑をまとひてばためく所を、主人走り寄つて烏を取りて、「奇怪なり。いましめて命を絶つべけれども」とて、羽を切つてぞ放しける。ある人、かの烏にむかつて、「汝は何者ぞ」と問へば、烏答云、「きのふは鷲、けふは烏なり」といへり。
そのごとく、我身のほどを知らずして、人の威勢をうらやむ者は、鷲のまねをする烏たるべし。