ある時、しやんといそほを召しつれ、墓所を過ぎさせ給ふに、かたはらに棺槨あり。其めぐりに七つの文字あり。一つにはよ、二つにはた、三つにはあ、四つにはほ、五にはみ、六つにはこ、七つにはを、是也。いそほしやんとに申けるは、「殿は智者にてわたらせ給へば、この文字の心を知らせ給ふや」といふ。しやむと、「是は古の字なり。世隔たり時移つて、今の人たやすく知る事なし」と仰ければ、いそ保あざ笑つていはく、「此文字の心を■あらはすにおゐては、いかばかりの御褒美にかあづからん」と申ければ、しやんと答云、「此心をあらはすにおゐては、譜代の所をさしをくべし。しかのみならず、もしこの文字の下にあらん物、半分をあたへん」となり。伊曾保申けるは、「第一によとは、四つといふ儀なり。二にたとは、たからといふ儀なり。三にあとは、有べしと書く儀なり。四に保とは、掘るべしと云儀なり。五にみとは、身に付べからずと云義也。六にことは、こがねと云儀なり。七にをとは、おくと云儀なり」と讀て、その下を掘りて見れば、文字のごとくあまたの黄金ありけり。しやんと、これを見て欲念おこり、伊曾保に約束のごとくあたへず。
なをその下を掘りて見れば、四方なる石に五つの文字あらはれたり。一つにはを、二つにはこ、三つにはみ、四つにはて、五つにはわ、これなり。いそほ是を見て、しやんとに申けるは、「この黄金をみだりに取り給ふべからず。そのゆへは此文字にあらはれ、大一をとは、おくといふ儀なり。大二ことは、こがねといふ儀なり。大三みとは、見つくると云儀なり。大四てとは、帝王といふ儀なり。大五わとは、渡し奉るべしといふ儀なり。しからば、その金をほしゐまゝに取り給ふべからず」と云。その時、しやんと仰天して、ひそかにいそほを近づけ、「この事他人に漏らすべからず」とて、かね半分をあたへける。いそ保石にむかつて禮をする。そのゆへは、「このかねをばさきに給はるまじきとさだめ給へど、この文字故にこそ給はりつれ」とて、石と文字とを禮拜す。又、伊曾保申けるは、「此寶を取り出すにおいては、譜代の所を赦免あるべしと堅く契約ありければ、今より後は、御ゆるしなしとても、御譜代の所をばゆるされ申べし」といひけるなり。



