去ほどに、ねたなを國王いそ保を語らひ、よな\/昔今の物語どもし給ふ。ある夜、伊曾ほ、夜ふけて、やゝもすれば眠りがちなり。「奇怪なり。語れ+ 」と責め給へば、いそ保謹しんで承、叡聞に備へて云、「近き比、ある人千五百疋の羊を飼ふ。其道に河あり。底深くして、かちにて渡る事かなはず。つねに大船をもつてこれを渡る。有時、俄に歸りけるに、船をもとむるによしなし。いかん共せんかたなくして、こゝかしこ尋ねありきければ、小舟一艘汀にあり。又ふたりとも乘るべき舟にもあらず。羊一疋我とともに乘りて渡る。殘りの羊、數多ければ、そのひまいくばくの費へぞや」といひて、又眠る。
その時、國王逆鱗あつて、いそ保を諌め給ふ。「汝が睡眠狼藉也。語果たせ」と綸言あれば、いそほおそれ+ 申けるは、「千五百疋の羊を小舟にて一疋づつ渡せば、その時刻いくばくかあらん。その間に眠り候」と申ければ、國王大きに叡感あつて、「汝が才覺量りがたし」。「御さんあれ」とていとまを請ふ。おかしくも又感情も深かりけり。



