ある人、片山のほとりにおゐて、小鳥をさし取る事あり。これを殺さんとするに、かの鳥支へて申けるは、「いかに御邊、我程の小鳥を殺させ給へばとて、いかばかりの事か候べきや。助け給はば、三つの事を教へ奉らん」といふ。「さらばいへ」とて、その命を助く。かの鳥申けるは、「第一には、あるまじき事をあるべしと思ふ事なかれ。第二には、もとめがたき事をもとめたきと思ふ事なかれ。第三には、去つて還らざる事を悔やむ事なかれ。此三つをよく保たば、あやまり有べからず」と云を聞ひて、此鳥を放しぬ。
その時、鳥、高き木末に飛びあがり、「さても御邊はをろかなる人かな。わが腹にならびき玉を持てり。これを御邊取り給はば、世にならびなく榮へ給ふべき物を」と笑ひければ、かの人千たび後悔して、二たびかの鳥を取らばやとねらふほどに、かの鳥又申けるは、「いかに御邊、御身にまさりたるつたなき人は候まじ。そのゆへは、只今御邊に教へける事をば、何とか聞き給ふや。第一、あるまじき事をあるべしと思ふ事なかれとは、まづわが腹に玉ありといふは、あるべき事やいなや。第二には、もとめがたき事をもとめたきと思ふ事なかれとは、我を二たび取ることなかるべからず。第三には、去つて還らぬ事を悔やむ事なかれとは、我を一たび放つもの、かなはぬ物故ねらふ事、去つて還らぬを悔やむにあらずや」とぞ恥ぢしめにける。
其ごとく、人つねにこの三つに惑へるものなり。よき教へ目の前にありといへども、これを見聞ながら、保つ者ひとりもなし。あながち鳥の教へたるにも有べからず。人はけだものにも劣ると云事を知しめんがためとかや。



