ある人、ゑのこ一疋なつけ育て、是を愛しけるが、年比ありて、なにとかしたりけん、かのえのこ俄に死する事ありけり。主じ、これを歎き悲しみて、心に思ふやう、「かゝるいとけなきえのこの死骸は、山野に捨てんよりは、とてもの事に寺のかたはらにうづまばや」と思ひて、日暮に臨んで、人に忍びて、是を取りつゝ堂のほとりにうづみける。
やゝあつて、かの寺の僧これを傳へ聞きて、「これは何物のしわざぞや。かゝる狼藉、前代未聞ためしなし」といひければ、かの主じをよびて、すでにあや敷いましめられ侍りける。主じ、さらに返答におよばず、赤面してゐたりしが、遁るべきかたなくて、此出家の重欲心をさとつて申けるは、「御邊の仰せらるる所、もつとも道理至極なり。然ども、御存知なきにや侍らん。此えのこの臨終、さも有難くいみじき心ざしあり。それをいかにと申に、後世を弔はれんそのために、持ちたる百貫の料足を、貴僧に奉るべしといひおき侍る」とありければ、僧これを聞ひて、思ひの外に勇む氣色にていふやう、「さても+ かゝるありがたき心ざしはたゞ事にあらず。我をろかなる者の身として、ゆめ\/是を知らずといましめ侍るなり。御邊は歎き給ふ事なかれ。これほどの心ざしを持ちたらんは、たとひ畜類なりといふとも、必極樂へ生れん事、いさゝかも疑ひ玉ふ事あらじ。われもろともにかの跡を懇に弔ふべし」とて、此ゑのこの心ざしを、奇特なりとて貴まれける。
そのごとく、欲に耽る物は、かの出家にことならず。人あつて引物をさゝれければ、寶に目をくらして、理を非に枉ぐる事是多し。かるが故に、「欲深ければ、戒を破り、罪を作り、身をほろぼす物也」とぞ見えけり。これを思へ。



