ある所に盜人一人ありけり。其所の人、「かれに妻をあたへん」といふ。さりながらとて、學者のもとに行きてこれを問ふに、學者たとへをもつていはく、「されば、人間天道に仰ぎ申けるは、「日輪妻を持たぬやうに計らひ給へ」といふ。天道、「いかに」と問ひ給へば、人間答云、「日輪たゞ一つ有さへ炎天の比は暑さを忍びがたし。しかのみならず、ある時は五穀を照り損ふ。若此日輪、妻子眷屬盤昌せば、いかゞし奉らん」と申。そのごとく、盜人一人あるだに物さはがしくかまびすしきに、妻をあたへて子孫繁昌せん事いかん」との給へば、「げにも」とぞ人々申ける。
そのごとく、惡人には力を添ゆる事、雪に霜を添ゆるがごとし。仇をば恩にて報ずるなれば、惡人にはその力をおとさする事、かれがためにはよき助けたるべし。



