ある時、しやんと旅行におもむかせ給ふに、下人どもに荷物をあておこなふ。われも+ と輕き荷物をあらそひ取りて、これをもつ。こゝに食物を入たるものありけり。その重きにおそれて、これを持つ物なし。「さらば」とて、いそほ辭するにをよばず、「なに事も殿の御奉公ならば」とて、これを持つ。その日の重荷、「いそ保に過ぎたる者なし」と皆人いひけり。
日數經て行くほどに、この食物をつねに用ゆ。かるがゆへに日に添へて輕くなりけり。果てには、いと輕き荷物持ちてけり。「あつぱれ賢き心宛かな」とて、猜み給ふ人々ありけり。