伊曾保物語 (中) - 02 ゑしつとの帝王より不審の返答の事

 去程に、いそほかのはかり事に巧みけるは、きりほといふ大なる鳥を四つ生きながら取つて、その足に篭を結いつけ、その中に童子一人づゝ入おき、其鳥の衣食を持たせ、餌食をあぐる時は飛びあがり、さぐる時は飛びさがるやうにして、以上四つこしらへたり。是をこゝろむるにつゝがなし。此由を奏聞すれば、御門大きに御感あり。さらばとてゑしつとに到りぬ。ゑしつとの人々、いそほが姿のおかしげなるを見て、笑ひあざける事かぎりなし。されども、いそ保少も憚る氣色もなく庭上にかしこまる。國王此由叡覽あつて、「はひらうにやの御使は、御邊にて侍るか。虚空に殿閣立べきとの不審はいかに」とのたまへば、「承候」とてわが屋に歸りぬ。
 されば、此事風聞して、都鄙なんきやうの者共是を見んとて都にのぼりぬ。その日に臨んで、かのきりほをこしらへ、庭上に据へ、「所はいづくぞ」と申ければ、「あの邊こそよかんめれ」と仰ければ、その邊にさし放す。四つの鳥四所に立ちてひらめきける所に、篭の中よりわらべの聲としてよばゝりけるは、「この所に殿閣を建てん事やすし。早く土と石を運びあげ給へ」とのゝしりければ、御門を始め奉り、月卿雲客、女房達に至るまで、「げにことはりなる返答かな」とあきれ果ててぞおはしける。御門此由叡覽あつて、「いと賢き謀かな」とて、いそ保を貴み給ふ。「けふよりして我師たるべし」とさだめ給ひけるとぞ。