つら\/人間のありさまを案ずるに、色にめで香に染めける事をもととして、よき道を知る事なし。されば、この卷物を一本のうへ木には、必花實)あり。花は色香をあらはす物なり。實はその誠をあらはせり。されば、庭鳥になぞらへてその事を知るべし。庭鳥塵芥にうづもれて餌食をもとむる所に、いとめでたき玉を掻きいだせり。庭鳥かつてこれを用いず、踏みのけてをのれが餌食をもとむ。そのごとく、あやめも知らぬ人には、たゞ庭鳥にことならず。玉のごとくなるよき道をばすこしも用ず、芥なる色香に染みて一生をくらすものなりとぞ見え侍りける。